『ハッピー・ボイス・キラー』評価感想*犬、猫、生首が喋りまくる不思議ワールド
※後半にネタバレあり(注釈後)※
映画感想語り、今回は『ハッピー・ボイス・キラー』(2014年)です。
監督はマルジャン・サトラピ。
色々ぶっ飛んでるホラーサスペンスコメディです。
犬も猫も、生首までも喋る喋る!!
ポップな雰囲気にしつつ、実は重い精神病患者の苦悩を描いている作品でもあります。
とにかく口の悪い猫Mr.ウィスカーズが可愛いんです(*´w`*)
*あらすじ*
アメリカの片田舎、ミルトンに住む孤独な青年ジェリー(ライアン・レイノルズ)。
地元の工場で働き、ペットの犬ボスコと猫Mr.ウィスカーズと一緒に平凡な生活を送っていた。
そんなジェリーにはある秘密があった。
他の人には聞こえない声が聞こえるのだ。
精神的な病からくるもので、精神科医のウォーレン先生(ジャッキー・ウィーヴァー)から薬を処方されるも、ほとんど服用せずにペットと会話するという奇妙ながら楽しい日々を送っていた。
ある日、工場の社長から年に一度のパーティーをすると告げられ、ジェリーも新人の要員としてパーティーの仕切り係に抜擢される。
片思いの経理係フィオナ(ジェマ・アータートン)も仕切り係だったことに心躍らせたジェリーは、犬と猫の声に諭されながらフィオナに猛アタック。
若干引いているフィオナと、密かにジェリーに想いを寄せるフィオナの同僚リサ(アナ・ケンドリック)にも気づかずデートに誘うも、見事にすっぽかされてしまう。
落胆した帰り道、大雨が降って運よくフィオナを家に送ることになったジェリー。
話しているうちフィオナと親しくなり、飲み直そうと言う彼女と街はずれのバーに向かう。
その道中、野生のシカと衝突して轢いてしまう。
シカの苦しむ声が聞こえたジェリーは楽にしようとシカにトドメをさすが、それに怯えて森の中へ逃げ出すフィオナ。
追いかけるジェリーだが、転んだ勢みに手に持っていたナイフでフィオナを刺し殺してしまう。
その出来事から、ジェリーは徐々に正気を失っていくーー
*評価(最高★5)
全体 ★★★★☆
かなーり好き嫌いの分かれそうな、悪趣味な作品です。
殺人や精神病という重い題材を扱いながら、それを非常にポップにコメディタッチで描いています。
しかしながら、主人公ジェリーの複雑な心理を分かりやすく見せている隠れた良作だと思います。
グロさ ★★★★☆
死体解体シーンは直接描写こそないものの、肉片が詰まったタッパー山積みなど結構グロいです。
明るい雰囲気にかき消され気味ですが、何気にダークで血も多いので注意です。
「病気だから仕方ない」というのは、犯罪までいってしまったら適用されるべきじゃないと私は思います。
なので終わり方は納得ですが、賛否ありそうです。
コメディ度 ★★★★☆
ブラックコメディですね。
Mr.ウィスカーズ&ボスコや生首フィオナとの会話で面白おかしく表現しつつ、茶化してはいけない部分は真面目に描いてると思います…たぶん(笑)
ラストは人によっては、不謹慎だと思うかもしれません。
オススメ度 ★★★★★
私はかなり好きです、このふざけたノリ。
冷蔵庫の中から呼ぶ生首美女とか、優しい犬と悪い猫との攻防とか、とにかく不思議ワールド全開です。
理由はたぶんすぐ分かると思いますが、それでも動物が喋るっていいですよね( *´艸`)
私もあんな世界を見たいです。
猫好きさんはMr.ウィスカーズのワル可愛さだけで満足できると思います!
※ここからネタバレ感想↓※
ネタバレ書き中……_φ(・_・
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※ここからは内容を知っている前提です。
ニャンコに魅かれて観てみました本作。
隠れた名作発見!とばかりに、大好きな作品になりました。
ディズニー映画をとにかく悪趣味にして、ダークなテーマを扱ったみたいな内容です。
色々ぶっ飛んでます。
まだレビューはしてないですが、同じく色々ぶっ飛んでるやや悪趣味なスパイアクション『キングスマン』なんかもオススメですよ!
違う方向にぶっ飛んでる悪趣味ホラー『ヴィジット』もハマりましたし、私は悪趣味おふざけ映画が割と好きなのかもしれません(笑)
『ヴィジット』評価感想*「ババアが夜中に走り出す」 - みこブロ
そんな本作。
一見コメディ風サイコホラーですが、決して笑えるだけの話ではありません。
統合失調症患者の苦悩という重い話でもあります。
統合失調症とは…
統合失調症に共通する症状は、思考や行動、感情がまとまりにくくなることである。
自閉や連合障害からくる脳の疲弊によって、一部の患者では特徴的な幻覚や妄想を発症する頻度が少なくない。
また社会的または職業的機能の低下すなわち、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能が病前に獲得していた水準より著しく低下している。
(Wikipediaより)
私も詳しくないので引用でお送りしました。
よく映画の題材にされる解離性同一性障害(いわゆる多重人格)とは少し違うようです。
あくまで人格は1人だけど、いくつもの自分の心の声が聞こえるという感じですね。
この感覚は分かる人も多いのではないでしょうか。
いわゆる『天使の声と悪魔の声』です。
正しさと誘惑、どちらを選ぶか…精神疾患じゃなくても悩まされますよね。
それが幻覚や妄想レベルで出てしまうのが統合失調症のようです。
ジェリーの場合は、自分の心の声を周りのものに当てはめて聞いています。
良心のボスコ、悪意のMr.ウィスカーズ、そして罪の象徴であり逃避願望でもある生首フィオナ。
ジェリーが精神病を患っているという話、そしてよく聞けばボスコもMr.ウィスカーズもジェリーと同じ声なので、すぐに妄想だと察せました。
口もちゃんと動いているので本当に動物や生首と話しているみたいに見えます。
人に迷惑さえかけなければ、こんな世界に見えてた方が幸せだろうなぁと思っちゃいました(*´-`)
ジェリーはカウンセリングに通いつつ、社会復帰プログラムで工事勤務をしています。
真面目でよく働くと、上司からも褒められている好青年です。
ある日社内パーティーの実行委員の1人として参加してくれと言われ、ジェリーは躊躇います。
しかし経理部のフィオナが参加すると聞いて快諾します。
しかし人付き合いが苦手なジェリーは、内心「面倒な役回りを新人に押し付けたんだ」という捻くれた考えも持っていました。
そんなネガティブさや悪意を代弁するのが、猫のMr.ウィスカーズです。
もう超可愛い!!!!
すんごい悪い顔で悪い発言をするのですが、それすら可愛いから許す(*ノv`)b
ジェリーがそんな悪い誘惑に乗せられないよう引き止める良心が、犬のボスコ。
顔は厳ついけど、とっても優しくていい子です。
ジェリーにとって癒しの存在です。
2匹は仲が悪く、「猫の言うことなんて聞いちゃダメだ」と言うボスコに、口の悪いMr.ウィスカーズは「ミニバンに轢かれて死んじまえ」なんて言い放ったりします。
そんな2匹とジェリーとのやりとりは、シュールだけど楽しいです。
ただ…実際には独り言を言ってるだけだと思うと、なんとも虚しいですね(;-ω-)ゞ
ジェリーが想いを寄せる女性フィオナは、思ったことをハッキリ言う性格で自己中心的ですが、かなりの美人です。
パーティーでノリノリに踊りまくる姿に見惚れているジェリーフィルターでは、フィオナが輝き周りに蝶や花が舞っているように見えるのでした。
フィオナが天使に見えたりと、ジェリーフィルターを通して見る世界はまるで少女漫画のようです。
しかしフィオナは誰にでも気安く接するだけで、ジェリーをなんとも思っていません。
むしろ空気を読まずにグイグイくるジェリーを嫌がっている様子。
ジェリーは半ば強引にデートの約束をしますが、乗り気じゃないフィオナは別の予定を優先してすっぽかします。
しかし大雨の帰り道、偶然に出会った2人は距離を縮めます。
今から飲みに行こうと場末のバーに行く途中、大きなシカと正面衝突してしまいます。
フロントガラスを突き破って倒れたシカが「楽にしてくれ」とジェリーに言ってきます。
それはジェリー自身が過去に体験した、大きなトラウマとなっている言葉でした。
ジェリーの母は、彼と同じく統合失調症でした。
声が聞こえると言う母とジェリーは、乱暴な義父に「頭がいかれた親子」と罵られ虐待されて、どんどん心を病んでいきました。
母の病状は悪化の一途を辿り、精神病院に連れていかれそうになります。
母はもうあそこには戻りたくないと泣き、ジェリーに「私を楽にして」とガラス片を渡します。
苦しそうな母を見たジェリーは、母を手にかけるのでした。
自殺は怖いから息子の手で…って、なんともむごい話ですね…。
それがジェリーの強いトラウマと、殺人衝動の元凶になっています。
母と同じその言葉を聞いたジェリーは、ナイフでシカの喉を思い切り掻き切ります。
血飛沫が舞う車内。
ジェリーに恐怖を感じたフィオナは逃げ出します。
ジェリーはそれを追いますが、なぜか手にはナイフが。
そして案の定、転んだ拍子にフィオナを刺してしまいます。
苦しむフィオナに悲しみ謝り続けながら、楽にしてあげると何度もナイフを刺すジェリー。
自分のやったことに呆然とするジェリーでしたが、隠蔽のため遺体を家に持ち帰ります。
「なんてことをしたんだ…」と悲しむボスコ。
Mr.ウィスカーズは「殺すことで生きてると実感するんだろ」と、ジェリーを本能に従えと促します。
その言葉を否定しながら、ジェリーはフィオナの遺体を細かく切断し、生首だけ綺麗に残して冷蔵庫に入れます。
このシーンの肉入りタッパーは、手が入ってたりして気持ち悪かったですね(;´Д`)
朝起きると、冷蔵庫からジェリーを呼ぶ声が聞こえてきます。
開けるとそこには元気に喋るフィオナの生首が。
元々そういう生物かと思うくらい綺麗です。
もちろんジェリーフィルターを通しているからです。
昨日はよくもやってくれたわねと言う彼女に謝り倒すジェリー。
フィオナはジェリーに「薬をちゃんと飲んで」と言います。
ジェリーはもう長いこと精神科から処方された薬を服用していませんでした。
過去に何度も、毎日飲まないと良くならないからちゃんと飲みなさいとウォーレン先生に諭されています。
あれは辛くなるから嫌だと渋るジェリーに「さっさと薬を飲めーーー!!」とキレるフィオナ。
その迫力に押され、ジェリーは薬を飲んで仕事に向かいます。
仕事から帰ると、家の中がめちゃくちゃになっていることに気づきます。
しかしそれが真実で、綺麗に見えていたのはジェリーだけでした。
家の中はそこら中、ゴミと血と糞だらけです。
2匹はいくら話しかけても喋らず、冷蔵庫を開けると血濡れたフィオナの生首が置いてありました。
恐怖を感じたジェリーは薬を全て捨てます。
そしてペット達や生首の声は自分の妄想だと自覚します。
厳密には、ジェリーはずっと自覚していました。
しかし独りぼっちの現実に気づかないフリをしていたのです。
失意のまま眠るジェリーですが、翌朝には全て元通りになっていました。
薬の効果が切れたからです。
ジェリーは喜び、フィオナの生首と会話しながらもう絶対あんな薬飲まないと言うのでした。
生首にシリアルを食べさせるシュールすぎるシーン。
そのシリアルどこに行ったんだ( ゚д゚)
フィオナは「お友達がほしいの」と、暗に誰かを殺せというお願いをします。
Mr.ウィスカーズもそれに同意しますが「そんなことできないし、したくもない」と誘惑を振り払うジェリーでした。
精神病を改善する薬で、辛い現実を見なきゃいけなくなるというのはなんとも皮肉ですね。
確かに妄想の世界に浸っていた方が幸せでしょう。
自活できないレベルの精神疾患は、信頼できる誰かが側についてしっかりサポートしてあげないと改善は難しいですよね。
調子を取り戻したジェリーは、フィオナの同僚でありジェリーのことを好いているリサと、急激に親しくなっていきます。
フィオナは今のところ行方知れず扱いのようです。
リサとの恋愛に心躍らせるジェリーでしたが、Mr.ウィスカーズが殺したいんだろう?と囁きます。
聞こえないフリをしますが、ジェリーの心は殺人衝動に揺れていました。
ある日リサがサプライズでジェリーの家まで来ます。
中に入れたくないジェリーは慌てて外に出ますが、リサは好奇心から中に入ってしまいます。
ゴミや血まみれの惨状を見た彼女は、怯えてジェリーから逃げ惑います。
弁解しながら迫るジェリーに突き飛ばされたリサは、ベッドの縁にぶつかり首の骨が折れてしまいます。
ジェリーは「苦しいんだね…楽にしてあげるから」と呟き、フィオナの隣にリサの生首が並びました。
フィオナだけでなくリサまで無断欠勤をしていることを不審に思った同僚のアリソンは、ジェリーの家を訪ねます。
彼女も冷蔵庫の仲間入りしました。
Mr.ウィスカーズは「もっとやれ!冷蔵庫大きくしないとな」と煽りますが、葛藤するジェリーは良心のボスコに助けを求めます。
ボスコは「君は悪い奴だ…残念だよ」と匙を投げました。
ジェリーは自分のやってしまった罪の重さに落胆します。
自分の中の衝動を抑えきれなくなったジェリーは、ウォーレン先生に助けを求めに行きます。
薬を飲んでないこと、人を殺したことを正直に話すジェリー。
そんな彼に危険を感じたウォーレン先生は、病院に連絡しようとします。
しかしジェリーはそれを取り押さえ「もっとカウンセリングしてほしい」とウォーレン先生を車で攫います。
誰もいない草原で、声が誘惑してくるんだという苦悩を語るジェリーに、ウォーレン先生は必死に伝えます。
「心の声に誘惑されることは誰にでもある。
でも、必ずしもそれに従う必要はないのよ」と。
従わなくていいんだと気づいたジェリーは、晴れ晴れした表情で先生を自宅に連れ帰ります。
自宅の惨状を見たウォーレン先生は言葉を失い怯えます。
先生が寂しくないようにと、目の前にフィオナの生首を置くジェリー。
それを見たウォーレン先生は悲鳴をあげます。
もちろん彼女にはおぞましい生首死体に見えています。
ジェリーにはフィオナとMr.ウィスカーズが同じように叫ぶ声も聞こえていました。
ボスコはいません。
Mr.ウィスカーズは「ミニバンに轢かれて死んだ」なんて言います。
ボスコがいないと僕はダメなんだ!と探しに行こうとするジェリー。
実はジェリーがウォーレン先生のところへ行っている間、同僚が次々失踪することを怪しんだ男性社員2人組がジェリーの家を見に行っていました。
そこで女性陣の車を発見した2人は、家の中を覗いて惨状に驚きます。
その時にボスコは外に飛び出していきました。
急いで警察に連絡して逃げ出し、ジェリーと鉢合わせせずに済んだのでした。
ボスコを探しに外へ出たジェリーは、パトカーが向かってくるのを見て慌てて逃げ出します。
通気口から階下に逃げるジェリー。
その際にガス栓の蓋が外れてガスが漏れ出します。
Mr.ウィスカーズはジェリーに別れを告げ残りました。
↑(ジェリーの家は閉鎖したボウリング場の2階にあります)
部屋に乗り込んだ警察は、縛られたウォーレン先生を発見します。
ボスコとMr.ウィスカーズも無事保護されました。
ガスが引火して、ジェリーの家は激しく燃え始めます。
排気口からボウリング場に出たジェリーは、充満する煙に倒れこみます。
そこで最後の心の声を聞きました。
「ここで諦めて燃えカスになるつもりか」と言う悪意のMr.ウィスカーズ。
「君は生きていてはいけないんだ」と言う良心のボスコ。
ジェリーは良心、つまり死を選択しました。
映像はジェリーの脳内へ。
真っ白な世界にいるボスコとMr.ウィスカーズ。
お互い「お前のこと結構好きだった」と伝えて別れます。
そして急に始まるエンドロールミュージカル( ゚д゚)ポカーン
めちゃくちゃ明るい曲に乗せて、ジェリーと殺された女性3人や、やたら軽いイエス様が踊り出します。
なんだかクセになる歌だ〜(*⁰▿⁰*)
そして最後にジェリーはイエス様によって、天国へとリフトで登っていくのでした。
最後の最後ですんごい世界観を見せつけられた(笑)
天海祐希が主演のドラマ『女王の教室』のエンディングを思い出しましたよ。
彼の人生は決してハッピーではなかったけど、最後に楽しい夢を見れてよかったです。
苦しい現実を生きるより、彼にとって幸せだっただろうと思います。
ウォーレン先生は「彼は病気なの。傷つけないで」と言ってましたが、自分の良心の言う通り、人殺しを止められないであろう彼は生きているべきではないのかもしれません。
きっと周りも自分も辛いだけです。
私は彼の生きづらさが少しだけ分かります。
なので最後の選択は間違いで、どんなに辛い現実でも生きて治療を受け続けるべきだとは思いません。
周りがそう言うのは簡単なのです。
ジェリーが「従わなくていいんだ!」と喜んでいたのが良心の声だったら…とちょっと心配してました。
最終的に良心を消して、ウォーレン先生も手にかけ殺人鬼になってしまうのかと思いましたが、良心が勝ってくれてよかったです。
あのタイミングで警察が来なかったら、結果は変わってたかもしれないですけどね。
なんとも奇妙で楽しい、けれど寂しい作品でした。
ここまで読んでくださりありがとうございました(*´ω`*)ゞ
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